ただ声を聞くだけで(遙か〜舞一夜〜:季史SS)
2006年8月23日 SS【遙か】雨が────降る。
ぽたり、ぽたり、と雨粒が葉に落ち、弾くそれは楽の音。
水を含み、重みを増したはずの狩衣を鮮やかに翻し、踏み出す。
手に扇。ゆったりと、澱みなく流れる動き。
音もなく空を裂く扇の先をひたと見つめる。
ふと、脳裏を掠める、影。
「…あか、ね……」
独り、当てもなく都を彷徨い歩く中、出逢った少女。
そうだ、あの時も雨が。
ならば今日も逢えるのだろうか。
同じ瞳を、同じ感情を宿した迷い子。
己の名も何者であるかも分からぬ、記憶のないわたしを、
優しく包み込んでくれるような、あの温かな……声。
呼んでもらいたい。そなたに、名を。
だが───。
「…ぁ、うあぁぁあああ…ッ…!!」
一瞬。痙攣が起き、バシャ…と濡れた地面に力なく両膝をつき、蹲る。扇が落ちる。
いたい。痛い。イタイ。頭が、体が、心が。全て、すべて。
左の頬が、焼けるように熱をもつ。
苦しさに意識が遠のき、視界が朧になっていく。
それでも、助けを求めるように。祈るように、叫ぶ。
「…っ……ぁか…ね…ッ!!」
あかね。そなたに、逢いたい───。
ぽたり、ぽたり、と雨粒が葉に落ち、弾くそれは楽の音。
水を含み、重みを増したはずの狩衣を鮮やかに翻し、踏み出す。
手に扇。ゆったりと、澱みなく流れる動き。
音もなく空を裂く扇の先をひたと見つめる。
ふと、脳裏を掠める、影。
「…あか、ね……」
独り、当てもなく都を彷徨い歩く中、出逢った少女。
そうだ、あの時も雨が。
ならば今日も逢えるのだろうか。
同じ瞳を、同じ感情を宿した迷い子。
己の名も何者であるかも分からぬ、記憶のないわたしを、
優しく包み込んでくれるような、あの温かな……声。
呼んでもらいたい。そなたに、名を。
だが───。
「…ぁ、うあぁぁあああ…ッ…!!」
一瞬。痙攣が起き、バシャ…と濡れた地面に力なく両膝をつき、蹲る。扇が落ちる。
いたい。痛い。イタイ。頭が、体が、心が。全て、すべて。
左の頬が、焼けるように熱をもつ。
苦しさに意識が遠のき、視界が朧になっていく。
それでも、助けを求めるように。祈るように、叫ぶ。
「…っ……ぁか…ね…ッ!!」
あかね。そなたに、逢いたい───。
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