ただ、ただ側にいたかった。



数多の灯りに足元を照らされ、それでも私は漆黒の空を見上げた。
射千玉の闇に浮かび、消えていく仄かな光。浄化された魂の火。

あれは、貴方のカケラ。



貴方だけだった。
私を「神子」と呼ばず、『私』を呼んでくれたのは。
『私』を見てくれたのは、貴方だけだった。



居場所が見つからない、途方に暮れた私と貴方。



頼りなさそうな迷い子の瞳も。

低く、水底から響くような声も。

涙を拭ってくれる、優しい指先も。

憂いを秘めた切ない横顔も。

果敢無い笑みも、すべて。すべて。



ここにいた。貴方は。



いなく、ならないで。



『そなたが神子で、よかった…』



いや。そんなこと言わないで。
私は何もできないの。
最期に『神子』って言うなんて酷いよ。



手を伸ばし、光の粒を捕まえても、一瞬にして消え去る。

感触すら、残らない。



「…いや……」

ねぇ、私、泣いてる。
なんで、涙を拭ってくれないの。
苦しい。苦しい。どうして、こんな。



「…一人にしないで…っ、季史さん…ッ!!」



やっと名前を呼べたのに。
私、貴方の名前、見つけられたのに。

こんな“終わり”は、いや。



汚れることなど構わずに地に泣き崩れていった。





龍神様、声の限り叫んで祈れば、返してくれますか。


京を救えば、あの優しく哀しい、あの人を。







[了]

コメント