出逢ったのは、今日みたいな雨の日だった。



一言で表すなら『不思議な人』としか言い表せられない男性(ひと)。

不思議な空気を身に纏った人。

歳は……二十をいくつか過ぎたくらいではないだろうか。
憂いを帯びた顔が、低い声が、ひどく綺麗だった。

ぱふっ…と、抱えた膝に顔を伏せる。
乾かし綺麗に畳み、抱えていた薄衣が頬にあたる。
焚き染めた香が雨の匂いに混じり仄かに薫った。

「…どうしよう……これ」

雨避けに、と貸してもらったはいいが、ふと気づいたのだ。
いつ返せばいいのか。今度いつ逢えるかも分からない。
まして、この広い京の町。二度と逢えないことだって考えられるのだ。

「ぁ……」

そうだ、名前すら知らない。

それ以前に、一度しか逢っていないのに何故こんなに彼のことを考えているんだろう。

こんな感情、よく分からないけど。それでも──。


彼のことをもっと知りたい。



もし、彼にもう一度逢うことができたなら。

この衣を返せるなら、その時は。

名前を教えてほしい。


哀しげな瞳をもつ、優しい彼の名を。




《了》

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