遠い近い遠い(SB:ユダシン〔表お題〕)
2006年9月13日 SS【Saint Beast】『誰よりも、僕を側においてくれる…?』
『……おまえがそう、望むなら…』
声が遠い。
すぐ側に、もう少し手を伸ばせば触れられる位置にいるのに。
こんなにも近くにいるのに。
信じていたものが足元から崩れていくのを感じた。
“永遠”を信じていたとでもいうのだろうか。
時を操る、この私が。
シヴァに腕を引かれ離れていく貴方の背中。
俯いた私を何度も振り返る、痛いほどの視線。
大丈夫。分かって、います。
仕方がない。そうでなければ、希望の箱の開放を阻止出来なかった。
貴方には頷く以外の選択は許されなかった。
分かっています。だから、どうか。お願いです。
もう私を、見ないで───。
「シン…ッ!」
少し汗ばんだ手が私の手首を掴んだ。
呼吸が荒い。私も、貴方も。
ユダが追いかけてきた理由は分かり切っていた。
「…何故逃げる、シン」
ここ数日、ろくに話していない。
宣言通りユダはシヴァに四六時中張り付かれ、会ったとしても本当に挨拶程度しか交わしていないのだ。
何よりシヴァがユダとシンが話すのを嫌がる。
切り札は「ユダは僕を選んだんだ」と言い、そのままユダとどこかへ行ってしまう。
私は何も、言えなかった。
だから、逃げた。
ユダから。シヴァから。
もう、嫌だった。見ていたくなかった。
でも、一番嫌なのは───。
「離してください…」
腕を開放させようと引くが、ユダはそれを許さなかった。
「駄目だ。おれの質問に答えていない。」
手首を掴む力が強くなる。
私に触れないで。そんな瞳で見ないで。
こんな醜い、私を。
「離して…っ!!」
「…ッ…!」
力任せに振り上げた腕がユダの頬を掠める。
爪で傷つけてしまったのだろう、頬に一筋赤い線が浮かんだ。
「シン…」
気にした風もなく、反射的に離れた私にユダの手が伸ばされたが、触れる前に一歩後退る。
「…すみません」
謝罪は逃げたことに対してか、それとも傷を負わせたことに対してか。
もう心の中がグチャグチャだった。
「もう、私に会わないでください…」
「な…っ」
「シヴァの側にいると約束されたでしょう…?」
「それは…!」
「もう…駄目なんです…
…貴方と、シヴァが共にいるのを見る度…私は」
知らず零れてしまった涙を乱暴に拭う。
「私…は、シヴァに嫉妬してしまう。醜いんです、私はもう…」
ユダの一番側にいるのは、隣にいるのは私。
ユダの想いを、愛をいただけるのは私。
“それ”は私のものなのに。なぜ。
頭は理解していても、心はそうもいかない。
憎しみが私の体を這い上がってくる。
あぁ、こんな私では側にいてはいけない。
「…だから、もう…」
刹那。
有無を言わせず、引き寄せられる体。
「そんなことっ!!おまえは…」
声が、直に肌を震わす。貴方の声も震えている。
「おまえは…おれの」
どうして、こんなにも優しい。
優しすぎる、貴方。
「…大切な、おれの恋人なんだ…」
身動きが取れないほど、きつく抱き竦められた中で交わした口付けは
今まで何度も交わした中で一番甘く、そして一番苦かった。
貴方は優しすぎる。
名残惜しげに離れていく貴方の後姿を見つめ、ひとつ溜息。
近くて遠い貴方の背中。
もう二度と、隣に並ぶことは叶わぬのでしょうか。
遠くて近い、愛しい、ただ一人の貴方。
《END》
『……おまえがそう、望むなら…』
声が遠い。
すぐ側に、もう少し手を伸ばせば触れられる位置にいるのに。
こんなにも近くにいるのに。
信じていたものが足元から崩れていくのを感じた。
“永遠”を信じていたとでもいうのだろうか。
時を操る、この私が。
シヴァに腕を引かれ離れていく貴方の背中。
俯いた私を何度も振り返る、痛いほどの視線。
大丈夫。分かって、います。
仕方がない。そうでなければ、希望の箱の開放を阻止出来なかった。
貴方には頷く以外の選択は許されなかった。
分かっています。だから、どうか。お願いです。
もう私を、見ないで───。
「シン…ッ!」
少し汗ばんだ手が私の手首を掴んだ。
呼吸が荒い。私も、貴方も。
ユダが追いかけてきた理由は分かり切っていた。
「…何故逃げる、シン」
ここ数日、ろくに話していない。
宣言通りユダはシヴァに四六時中張り付かれ、会ったとしても本当に挨拶程度しか交わしていないのだ。
何よりシヴァがユダとシンが話すのを嫌がる。
切り札は「ユダは僕を選んだんだ」と言い、そのままユダとどこかへ行ってしまう。
私は何も、言えなかった。
だから、逃げた。
ユダから。シヴァから。
もう、嫌だった。見ていたくなかった。
でも、一番嫌なのは───。
「離してください…」
腕を開放させようと引くが、ユダはそれを許さなかった。
「駄目だ。おれの質問に答えていない。」
手首を掴む力が強くなる。
私に触れないで。そんな瞳で見ないで。
こんな醜い、私を。
「離して…っ!!」
「…ッ…!」
力任せに振り上げた腕がユダの頬を掠める。
爪で傷つけてしまったのだろう、頬に一筋赤い線が浮かんだ。
「シン…」
気にした風もなく、反射的に離れた私にユダの手が伸ばされたが、触れる前に一歩後退る。
「…すみません」
謝罪は逃げたことに対してか、それとも傷を負わせたことに対してか。
もう心の中がグチャグチャだった。
「もう、私に会わないでください…」
「な…っ」
「シヴァの側にいると約束されたでしょう…?」
「それは…!」
「もう…駄目なんです…
…貴方と、シヴァが共にいるのを見る度…私は」
知らず零れてしまった涙を乱暴に拭う。
「私…は、シヴァに嫉妬してしまう。醜いんです、私はもう…」
ユダの一番側にいるのは、隣にいるのは私。
ユダの想いを、愛をいただけるのは私。
“それ”は私のものなのに。なぜ。
頭は理解していても、心はそうもいかない。
憎しみが私の体を這い上がってくる。
あぁ、こんな私では側にいてはいけない。
「…だから、もう…」
刹那。
有無を言わせず、引き寄せられる体。
「そんなことっ!!おまえは…」
声が、直に肌を震わす。貴方の声も震えている。
「おまえは…おれの」
どうして、こんなにも優しい。
優しすぎる、貴方。
「…大切な、おれの恋人なんだ…」
身動きが取れないほど、きつく抱き竦められた中で交わした口付けは
今まで何度も交わした中で一番甘く、そして一番苦かった。
貴方は優しすぎる。
名残惜しげに離れていく貴方の後姿を見つめ、ひとつ溜息。
近くて遠い貴方の背中。
もう二度と、隣に並ぶことは叶わぬのでしょうか。
遠くて近い、愛しい、ただ一人の貴方。
《END》
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