糸竹遊戯 (遙か〜舞一夜〜[過去]:季史・友雅)
2006年9月21日 SS【遙か】その呼び名に慣れてしまったと言ったら君は、どんな顔をするのだろうね。
「琵琶殿はどのように思われますか…?」
「ん…?」
秋も深まり紅葉も盛りを迎え、月を肴に酒を酌み交わす。
当代随一と謳われる舞師─多 季史─とこうして面と向かい接することが出来るのは、気難しく気紛れな彼が認めた数少ない人物。
今上帝のおぼえもめでたき橘の少将、友雅は優雅とも言えるゆったりとした動作で、自分より幾歳年嵩の舞師を見る。
「ですから…その…」
歯切れ悪く呟き俯くと、紅の髪が整った顔(かんばせ)を隠す。
容貌で判断するならば、友雅よりも年少に見られるだろう。
尤も、舞楽の世界で名を馳せる彼はその知識や技術は抜きん出ていても
幾分世間知らずの節があるのだから、どちらにしても幼く見える。
「…恋を、したいのですか、季史殿は」
一応、問いの形はとっていても、それについては確信を持てた。
民の娯楽である舞の、それも最高峰の舞手ともなれば、身分に関わらず人々の内で噂になる。
浮いた話のひとつでもあれば良かったのかもしれない。
だが、舞にしか興味が湧かないのか、全くそういった話はないのだ。
「琵琶殿は…恋多き方と聞いております。私は…その、舞うことしか出来ぬ故、女人の扱い方も正直分かりませんので…」
あぁ、聞いていた通りだ。
思ったよりも人懐っこく、だが舞しか知らない不器用な。
『…彼が恋をするのは、舞うことが出来なくなった時でしょうね』
確かにそうかもしれない。だが、それでも。
本当の“恋”に出逢う日が来る。
それに、夢中になれるものがあるのは少し羨ましいものだ。
たとえその世界しか知らずとも。
「…まぁ、彼女たちへの想いの全てが“恋”と言っていいものか分かりかねますが…
しようと思って出来るものでもございませんでしょう」
「それは…」
暫くの沈黙の後、小さく頷く彼を見つめ微笑むと、友雅は話題を変える。
「一指(ひとさし)、お願いできますか?」
「…琵琶殿の琵琶をお聞かせ願えるのでしたら喜んで」
舞扇と琵琶を示し、軽口をきき。暫く笑い声が止まらなかった。
秋の小さな、小さな宴。
「琵琶殿はどのように思われますか…?」
「ん…?」
秋も深まり紅葉も盛りを迎え、月を肴に酒を酌み交わす。
当代随一と謳われる舞師─多 季史─とこうして面と向かい接することが出来るのは、気難しく気紛れな彼が認めた数少ない人物。
今上帝のおぼえもめでたき橘の少将、友雅は優雅とも言えるゆったりとした動作で、自分より幾歳年嵩の舞師を見る。
「ですから…その…」
歯切れ悪く呟き俯くと、紅の髪が整った顔(かんばせ)を隠す。
容貌で判断するならば、友雅よりも年少に見られるだろう。
尤も、舞楽の世界で名を馳せる彼はその知識や技術は抜きん出ていても
幾分世間知らずの節があるのだから、どちらにしても幼く見える。
「…恋を、したいのですか、季史殿は」
一応、問いの形はとっていても、それについては確信を持てた。
民の娯楽である舞の、それも最高峰の舞手ともなれば、身分に関わらず人々の内で噂になる。
浮いた話のひとつでもあれば良かったのかもしれない。
だが、舞にしか興味が湧かないのか、全くそういった話はないのだ。
「琵琶殿は…恋多き方と聞いております。私は…その、舞うことしか出来ぬ故、女人の扱い方も正直分かりませんので…」
あぁ、聞いていた通りだ。
思ったよりも人懐っこく、だが舞しか知らない不器用な。
『…彼が恋をするのは、舞うことが出来なくなった時でしょうね』
確かにそうかもしれない。だが、それでも。
本当の“恋”に出逢う日が来る。
それに、夢中になれるものがあるのは少し羨ましいものだ。
たとえその世界しか知らずとも。
「…まぁ、彼女たちへの想いの全てが“恋”と言っていいものか分かりかねますが…
しようと思って出来るものでもございませんでしょう」
「それは…」
暫くの沈黙の後、小さく頷く彼を見つめ微笑むと、友雅は話題を変える。
「一指(ひとさし)、お願いできますか?」
「…琵琶殿の琵琶をお聞かせ願えるのでしたら喜んで」
舞扇と琵琶を示し、軽口をきき。暫く笑い声が止まらなかった。
秋の小さな、小さな宴。
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