嘆きの焔、紅蓮の宴(遙か〜舞一夜〜:季あかSS)
2006年10月1日 SS【遙か】※注:このSSは以前書いたSSの『優しい夜明け』(遙か〜舞一夜〜)
に至るまでの時間を遡った設定となっています。
龍神の神子
そなたがいれば舞殿に上がることができる
幻の舞・斉凌王を舞うことが…
バチバチと木の爆ぜる音と無数の火の粉が闇の静寂を乱す。
燃え盛る舞殿。
貴方が歩む度に広がるこの炎は、悲しみの炎。
貴方の悲しみを浄化しない限り、舞殿を焼き尽くす。
貴方の名前を知った。
貴方の過去を、知った。
念に飲み込まれ、姿を変えた貴方を見ても、貴方に触れて、その膨大な念に精神が耐えきれず崩れるように倒れてしまっても、私には不思議と恐怖は湧かなかった。
ただ哀しかった。
私が神子であり、貴方が怨霊であることが。
どうしようもなく哀しかった。
もう一度、貴方に触れたい。
ちゃんと、貴方の苦しみを浄化したい。
もう、起き上がるのがやっとだったけれど。
痺れて、感覚のない手で、そっと頬を包み込むように触れる。
僅かに震えた瞳に困惑の色が滲む。
やっぱり季史さんだと、迷子のような、頼りない心細げな、そんな瞳。
浮かび上がった禍々しいほど赤い、その痣に触れる。
あぁ、涙の形だね。
淋しかったね、季史さん。
でも、もう、大丈夫。大丈夫だよ。
ひとりじゃないよ。
私が、一緒にいるから。
私の内に眠る神気で季史さんが本来の姿に戻っていく。
深い紅の髪。蒼天の瞳。
背の高い季史さんを抱きしめるのは少し無理だったのかな。
泣き笑いの顔で季史さんが屈んでくれる。
すべての哀しみを燃え尽くすが如く火柱が高く、天高く舞い上がる。
八葉のみんなの声が聞こえる。
「…季史さん…、私…側にいるよ…」
「……あか、ね…」
真っ白な龍神の気に私も季史さんも包まれる。
さらさらと射千玉の天から銀の光。
淋しさを拭う、優しい雨が降る───。
跡形もなく、焼け崩れた舞殿。
音もなく降り注いだ雨がゆっくりとあがる。
雲間から覗く青空は、季史さんの瞳と同じ色。
「…季史さん…?」
隣にいない。彼だけが。
どうして、だって私。
一緒にいると約束した。
「季史さんッ!!」
髪を振り乱し、辺りを探す。
八葉のみんなは何か叫んでいたけれど。聞こえない。もう、何も。
季史さん。季史さん!!
『…あか…ね』
滲む視界に入ったのは、階(きざはし)に落ちた舞扇。
「…季史…さ…?」
声が、した。震える指で扇を手にする。
……ここにいるの……?
[続→SS:優しい夜明け]
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