気持ちに触れたその先(SB:ユダシン)
2010年10月31日 SS【Saint Beast】心を癒し、時に掻き乱す…優しく切ない旋律。
弾き手そのままを表す澄んだ音色に耳を傾け、ユダはゆったりと
ソファに寛いだまま、隣に座るシンに賛辞を贈る。
「やはり…おまえのハープは素晴らしいな」
「…ありがとう、ございます…ユダ」
出逢って随分の月日が経つが、シンは相変わらず頬を染め
恥ずかしそうに俯いてしまう。
だがユダは気分を害することなく、寧ろその奥ゆかしさを
好ましく思い、目許をさらに和らげた。
実際ユダは、シンが天界一のハープの奏者だと思っている。
ただ美しいだけの音色を奏でる者なら、この天界にも確かにいる。
だが、これ程までに心を揺り動かす音色をユダは知らない。
奏でられる音色にも、シンの纏う空気にも包み込むような優しさが感じられるのだ。
今宵も美しい調べの余韻が名残惜しく、もう一曲、もう一曲…と
所望する内にすっかり夜も更けてしまった。
「すまない、シン…」
「いえ…私の方こそ、つい時間を忘れてしまって…」
もう、お暇させていただきますね、と。
小さく微笑み立ち上がりかけたシンの腕をユダは無意識に引き止めていた。
「…ぁ…、すまない…」
「ユダ…?」
不思議そうにシンが首を傾けるが、ユダ自身も驚き
その細い腕を解放し、己の掌を見つめた。
『まだ、共にいたい』
そう思った瞬間にシンの腕を掴んでいた。
──こんな感覚は知らなかった。
誰か、と離れ難いなど。
日中は他の天使と集まり談話することも多いが、夜は一人、
静寂に身を任せて過ごすのを好んでいた。
あの夜。
憂い、渇いた心に染み渡るように流れてきた旋律。
音色が絶えた夜。
知らず走り出し、森の奥深く…泉の畔に見つけたハープの奏者。
美しい、と。
容姿だけでなく、その凛とした高潔な魂に惹かれた。
その夜以来、毎晩のようにシンを家に招き入れハープを奏でてもらい、
そうなると自然と夕食を共にすることも多くなり、
最近はその一連の流れをお互いに習慣として感じる程だった。
食事の後、ユダは果実酒を片手に寛ぎ、シンはその隣に腰掛ける。
調弦が済み、程なくして紡ぎだされる音色。
気持ち伏せられた琥珀の瞳と、それを縁取る長い睫。
ほっそりとした頬。 弦を爪弾く細い指。
その繊細な指から奏でられる、自分のためだけの曲。
ユダは瞼を閉じて、小さく吐息をついた。
癒されていくのが、もう理屈などではなく、分かる。
本当に、シンの前では何も気負うことなく自然のままでいることができ、それを許され受け入れてもらえる。
これ程までの安寧の時は、ない。
そして、そんな至高の安らぎを与えてくれるシンを知れば知るほど───。
───愛しい、と。
「……あの…」
変わらない控えめな声。
「……」
「ユダ?」
「…なぁ、シン」
「はい」
変わらない、その心。
「泊まっていかないか?」
「…はい?」
するりと、至極自然と口をついて出た言葉に琥珀の瞳が見開かれる。
「もう夜も遅い。まあ、おれの所為だが…おまえの家はここから少し遠いだろう?」
だから泊まっていけ、と只の口実だとは思ったが、
このまま離れるよりはマシだと饒舌になる。
悠然と微笑み、困惑しながらも遠慮するシンを何とか丸め込んで。
いつか、この想いを伝えられるのだろうか。
今は未だ、この焦がれる程の熱情を、大切に胸に秘めて。
いつか、いつか───。
[END]
弾き手そのままを表す澄んだ音色に耳を傾け、ユダはゆったりと
ソファに寛いだまま、隣に座るシンに賛辞を贈る。
「やはり…おまえのハープは素晴らしいな」
「…ありがとう、ございます…ユダ」
出逢って随分の月日が経つが、シンは相変わらず頬を染め
恥ずかしそうに俯いてしまう。
だがユダは気分を害することなく、寧ろその奥ゆかしさを
好ましく思い、目許をさらに和らげた。
実際ユダは、シンが天界一のハープの奏者だと思っている。
ただ美しいだけの音色を奏でる者なら、この天界にも確かにいる。
だが、これ程までに心を揺り動かす音色をユダは知らない。
奏でられる音色にも、シンの纏う空気にも包み込むような優しさが感じられるのだ。
今宵も美しい調べの余韻が名残惜しく、もう一曲、もう一曲…と
所望する内にすっかり夜も更けてしまった。
「すまない、シン…」
「いえ…私の方こそ、つい時間を忘れてしまって…」
もう、お暇させていただきますね、と。
小さく微笑み立ち上がりかけたシンの腕をユダは無意識に引き止めていた。
「…ぁ…、すまない…」
「ユダ…?」
不思議そうにシンが首を傾けるが、ユダ自身も驚き
その細い腕を解放し、己の掌を見つめた。
『まだ、共にいたい』
そう思った瞬間にシンの腕を掴んでいた。
──こんな感覚は知らなかった。
誰か、と離れ難いなど。
日中は他の天使と集まり談話することも多いが、夜は一人、
静寂に身を任せて過ごすのを好んでいた。
あの夜。
憂い、渇いた心に染み渡るように流れてきた旋律。
音色が絶えた夜。
知らず走り出し、森の奥深く…泉の畔に見つけたハープの奏者。
美しい、と。
容姿だけでなく、その凛とした高潔な魂に惹かれた。
その夜以来、毎晩のようにシンを家に招き入れハープを奏でてもらい、
そうなると自然と夕食を共にすることも多くなり、
最近はその一連の流れをお互いに習慣として感じる程だった。
食事の後、ユダは果実酒を片手に寛ぎ、シンはその隣に腰掛ける。
調弦が済み、程なくして紡ぎだされる音色。
気持ち伏せられた琥珀の瞳と、それを縁取る長い睫。
ほっそりとした頬。 弦を爪弾く細い指。
その繊細な指から奏でられる、自分のためだけの曲。
ユダは瞼を閉じて、小さく吐息をついた。
癒されていくのが、もう理屈などではなく、分かる。
本当に、シンの前では何も気負うことなく自然のままでいることができ、それを許され受け入れてもらえる。
これ程までの安寧の時は、ない。
そして、そんな至高の安らぎを与えてくれるシンを知れば知るほど───。
───愛しい、と。
「……あの…」
変わらない控えめな声。
「……」
「ユダ?」
「…なぁ、シン」
「はい」
変わらない、その心。
「泊まっていかないか?」
「…はい?」
するりと、至極自然と口をついて出た言葉に琥珀の瞳が見開かれる。
「もう夜も遅い。まあ、おれの所為だが…おまえの家はここから少し遠いだろう?」
だから泊まっていけ、と只の口実だとは思ったが、
このまま離れるよりはマシだと饒舌になる。
悠然と微笑み、困惑しながらも遠慮するシンを何とか丸め込んで。
いつか、この想いを伝えられるのだろうか。
今は未だ、この焦がれる程の熱情を、大切に胸に秘めて。
いつか、いつか───。
[END]
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